社会に情報や物が溢れ、広告によるアプローチが限界に達している現代。企業やブランドは自社商品を愛し、支持するファンを増やしていく必要性に迫られている。

「コミュニティ」というワードがビジネスの世界でも注目を浴びる中、コミュニティマーケティングを支援するアマナでは、多様な角度からコミュニティについて考えるイベントを開催している。今回のテーマは、「ファンベースに学ぶ、熱狂するファンの作り方」。企業がどのようにコミュニティや熱狂的なファンを生み出すのかを探求する回となった。

ゲストにお招きしたのは、ファンを大切にし、ファンをベースにして中長期的に企業の売上や価値を上げていく考え方「ファンベース」を提唱する、コミュニケーション・ディレクターのさとなおさんこと、佐藤尚之氏。40分間の熱量あるプレゼンテーションからは何が語られたのか? 当日の様子をレポートする。

現代に「ファンベース」が求められる3つの理由

企業のコミュニティマーケティングを支援する株式会社ファンベースカンパニーの代表を務め、ファンベースに関する著書を出している佐藤氏。同氏は過去に大手広告代理店で25年間勤めていたが、興味関心ない新規顧客に情報を伝え、獲得するのが時代的にも社会的にもどんどん困難になっていくことを実感し、「ファンベース」の考えにたどり着いたという。

多くの企業が売上アップのために新規顧客ベースの施策に注力する中、なぜ今「ファンベース」が必要なのか? プレゼンテーションの冒頭、佐藤氏の口からは3つの理由が語られた。

ファンのロイヤリティを上げることが、「売上」に直結する

佐藤氏「ファンベースを始めたほうが良い理由の一つ目は、『売上』です。パレートの法則をご存知でしょうか? これは『2割のファンが全体の売上の8割を支えている』という経験則であり、多くのビジネスの世界で当てはまります。職業柄、多くの企業で顧客層と売上構成比の数字を聞く機会があり、その多くにおいて20%のファンが売上の大半を支えている例が確かめられました。そんな中、ファンのLTV(ライフタイムバリュー)を上げれば、売上アップにも直結しやすい。ファンベースを考える際、ファンを増やそうと考える方もいますが、それは違います。新しいファンを増やすのではなく、既存ファンに注目してその方々の満足度をアップする。そうすると売上は底上げされていきます。しかもファンは周りにどんどん言ってくれ、新規顧客も増やしてくれる。これがファンベースの基本の考えです」

この説を裏付けたのが、SONYの事例だ。同社は自社カメラの認知度を上げるために巨額の投資を続けてきたが、顧客が商品を購入したときを起点に、既存顧客とのコミュニケーションを積極的に取るようになった。初期はメールで連絡をし、撮影のティップスを教え、最終的にはオフラインでの交流会を開催。すると初めは10万円分を購入していた顧客が、交流会を開催する頃には53万円まで増やしていたという。

佐藤氏「ネットだけでなく、社員とファンがリアルに会うことで両者の絆は深まります。交流会で仲良くなった方々は、ブランドの熱狂的なファンになり、周囲に商品を勧めてくれる可能性も高い。商品を売ろうとするのではなく、ファンとの絆を強くすることが大切です」

新規顧客の獲得が困難を極める「時代」の流れ

2つめの理由は「時代」だ。人口減少や高齢化といった社会問題が顕著な現代において、母数が減り続ける新規顧客を獲得するのは至難の技だろう。情報や物が溢れる超成熟市場の影響も相まり、近年では「広告が効かなくなった」と佐藤氏は明かす。

佐藤氏「社会の情報量は増え続け、2010年の時点で総情報量は“世界中の砂浜の砂の数に相当する”1ZBの情報量が1年間で流れました。2020年には45ZBになると言われています。これだけ情報が溢れる中では、大半の広告はその砂嵐の中に紛れてしまう。むやみに『露出』を増やしても、砂粒を増やすだけです。砂浜に紛れた砂粒の多くはお客様に届きません」

インターネットやSNSの普及により、Web広告に大きな予算を割く企業も増えた。だが、佐藤氏はデジタルの利用度に関する複数の調査結果をもとに、インターネットにアクセスする(メール、LINE、ソーシャルゲームを除く)人は少ないと指摘する。

佐藤氏「SNSは決して万能ではありません。ニールセンの調査によると、SNSユーザーでもパレートの法則が当てはまります。たとえば国内におけるTwitterのヘビーユーザーは全体利用者の2割に当たる900万人であり、彼らが総利用時間の約8割を占有しています。つまりTwitterのバズは、日本の総人口の残りの1億1600万人には届きづらい。 また、現代の若者は“デジタルネイティブ”とも言われていますが、OECD加盟国以外を含む72カ国、約54万人の15歳の学生を対象に実施された調査によると、日本の若者は世界最低クラスのデジタル利用度であることが分かります。そういった事実を理解しないまま、思考停止でWeb広告に走っても伝わりません」

市場が縮小し、情報に溢れる時代でも、自社が発信する情報やコンテンツに目を向けてくれる存在は「ファン」に他ならない。時代の流れを考慮する意味でも、「ファン」を増やしていくことが先決だと佐藤氏は語気を強めた。

ファンの「類友」が、新規顧客となる

最後の理由として挙げられたのは「類友」だ。一体、どういうことか?

佐藤氏「情報が多く、何を選べばいいかわからないこの時代において、我々は価値観が近い人に頼るのです。価値観が近い家族や友人、いわゆる『類友(類は友を呼ぶ、の類友)』が愛用する商品は、自分も好きになる可能性が高い。世界最大級のPR会社の調査結果によれば、社会に数多く存在する情報源として最も信頼されているのは、インフルエンサーや有名人だけでなく、家族や友人であることが分かっています」

同じような属性や価値観を持つ人とつながろうとする人間の傾向は、「ホモフィリー」とも呼ばれる。人は同じ属性の相手に親近感を持ちやすく、影響を受けやすい。佐藤氏いわく、この傾向は購買行動でも反映されるという。

佐藤氏「類友がファンであれば、その言葉は熱意を伴います。すると類友が発信する情報の信頼度がアップするのです。『価値観の近さ×熱意』は、ファンコミュニティにおいて最強の方程式になります。ファンこそが新規顧客を増やしてくれるのです」

「ファンベース」で意識すべき3つのポイント

ファンベースの必要性が説かれたのち、焦点は「ファンベースのポイント」へと移った。ここでも佐藤氏は3つのポイントに絞り、一つずつその真意を説明する。

「イイトコロを伸ばす」ことで、ファンのLTVを向上する

最初にスライドに映し出されたのは「イイトコロを伸ばす」ーーシンプルな言葉に聞こえるが、多くの企業は「悪いところを改善する」ことに必死ではないだろうか。

佐藤氏「商品を買わない人のために悪いところを改善するのではなく、もうすでに愛用してくれているファンが愛する“イイトコロ”に注目してその価値を伸ばしていくのがファンベースの考えです。自社商品を選び、愛してくれる人たちのツボを抑え、彼らが喜ぶポイントにどんどん磨けをかけることでLTVは上がり、同時にホモフィリーも増え、最終的に売上が上がります」

自社商品やサービスの悪いところに集中が偏ると、運営のモチベーションが下がる可能性も高い。改善の姿勢ももちろん大切だが、「イイトコロ」に目を向ける機会が増えれば、その分だけ運営の士気を上げることも期待できるだろう。

他社にコピーされない「情緒価値」に目を向ける

質の良い商品が溢れる現代は、“超成熟市場”と言われる。佐藤氏は、同市場下では他社にコピーされやすい「機能価値」に注視するのは危険だと指摘する。

佐藤氏「先行商品の機能価値は、優れていればいるほど後発に研究され、追随され、付加価値をつけられ、安価化を経て陳腐化します。iPhoneのようなイノベーティブな商品でさえ、たった数年で他社に機能価値を追随され、売上でも追いつかれる時代です。みなさんの商品の機能価値も売れていれば必ず陳腐化します」

だからと言って、機能価値が無意味なわけではない。独自の機能価値により増えた新規顧客を、「情緒価値」で惹きつけることが重要になる。

佐藤氏「ファンベースでは、ファンたちの『共感』『愛着』『信頼』という3つの感情を強くしましょう、とオススメしています。情緒価値を生み出すの方法にテクニックはあまり必要ありません。ファンに喜んでもらうためにどうすればいいか。この問いに誠実に向き合えば、答えは自然と見つかります。情緒価値を生み出す努力を繰り返すうちに、いずれ『共感』は『熱狂』に、『愛着』は『無二』に、『信頼』は『応援』へと変わっていくはずです」

ファンの熱量を外へ広げる、「Through the Community」

最後に紹介されたのは、「Through the Community」だ。ファンベースのポイントにおいて、“コミュニティを越える”とはどういうことなのか?

佐藤氏「ファンがいて、この商品をいいねと誰かに言ったとします。例えば買い物ずきコミュニティにこれいいよねと言って、そこだけが盛り上がるのではなく、さらにその中にいた人が属する別のコミュニティに広めたくなるようなやり方でコミュニティを扱っていかないとダメです」

元AWS(アマゾン・ウェブサービス)のマーケティング担当であり、そのコミュニティ「JAWS-UG」の運営に携わっていた小島英輝氏は、過去のイベント登壇などでコミュニティ運営の秘訣として「Sell  through the community」を掲げている。佐藤氏はこの考えを指示した上で、その重要性について説明した。

佐藤氏「一つのコミュニティに広げて終わりではなく、さらにそのコミュニティから外側へ広めたくなるように構築しましょう。類友に広めたくなるような施策が必要です。ファンによる熱量を伴った言葉こそがコミュニティを越えて広まります。いかに熱く関与度の高いファンにするかが大事です」

「ファンベース」の実践は、何から始めるべき?

ファンベースの必要性を理解し、ポイントを心得ても、何から行動に移せばいいか迷うマーケティング担当者も多いだろう。プレゼンテーションの終盤に差しかかり、佐藤氏の口からはその答えの一つが提示された。

佐藤氏「まずはファンを知ること。そのために『ファンミーティング』をおすすめしています。アンケートやグループインタビューでは、ぼやっとした答えや本音しか分かりません。ファン同士が集まるファンミーティングでは、自然とトークが盛り上がり、会話のネタも広がります。ファンといえども、愛用する商品やサービスの好きなところを言語化できない人は多い。しかし、ファン同士で話が盛り上がると、体の内から湧き上がるように言葉が出てくるんです。そこで引き出されたファンの本音を傾聴する姿勢が大切です」

愛媛県今治市で生まれたタオルブランド「IKEUCHI ORGANIC」のファンミーティングは、会場の今治市までの交通費は自腹かつ自社商品を持参し、参加費7,000円というハードルを設けても集まる人たちに絞って開催する。現地に集まった“本物のファン”からは、ブランドに対する“本気の愛”が語られる。それが、ブランドにさらなる磨きをかけるのだ。

最後に佐藤氏は、企業がファンベースを実践する上で大切な心構えを述べ、45分に渡るプレゼンテーションを締めくくった。

佐藤氏「ファンと真正面から向き合い、彼らのツボを知る。それをもとにファンベースを実施してファンのロイヤリティを上げれば、自ずと熱量の高いコミュニティは生まれますから」