デジタルマーケティングが広がる現代、顧客との新たなコミュニケーション方法を探している企業の方も多いのではないでしょうか。
そんななか、「コミュニティ」を作ることで、良質なプロダクトやサー ビスを広げていく「コミュニティマーケティング」に注目が集まっています。
今回は、「コミュニティ」という軸で、様々な分野で人と人とをつなぐ取り組みをされているゲストをお招きし、それぞれの事例をもとに、マーケティング施策のヒントとなるようなテーマでお話しいただきました。


徳久 悟 氏
九州大学大学院芸術工学研究院准教授。博士(政策・メディア)。2013年、個人投資家及びビジネスパーソン向けメディアの運営等を行う株式会社ナビゲータープラットフォームを共同創業。2014年、ココナッツ・ジュースから作る醸造酒・蒸留酒の開発を行う株式会社ワニックを共同創業。著書に『地域発イノベーションの育て方:リソースから紡ぎ出す新規事業』がある。

私が地方経済に興味を持ったのは、10年前に途上国に行ってプロダクト 開発に携わるようになったことがきっかけです。
2010年の7月に、東ティモールにフィールドワークに行き、現地の課題 を解決するというプロダクトデザインコンテストに参加し、現地の人が 現金収入を得られるようなツールを作ろうと、ココナッツ・ウォーターからお酒を作ることを思いつきました。
当時、東ティモールの大部分の人々は2ドル以下で生活しているにも関 わらず、首都の先進国の人たちが宿泊するホテルで売られているビール は8ドルで売られていました。そこで、現地の人たちが先進国の人たち相手に商売をすることで、より多くの現金収入を獲得できると考えたのです。

このココナッツ・ウォーターを使って醸造酒・蒸留酒の開発を行う「WANIC」の事業を10年やるなかで「地域課題解決のフレームワーク」が出来上がりました。



実際に私が日本で取り組んだプロジェクト『新山口駅帰宅拠点施設(2017)』を事例に説明していきます。
この施設は、多目的ホールを含む複合施設で、施設内に、コワーキング・スペース、シェア・オフィス、シェア・ハウス機能を持っています。このなかで「起 業家育成プログラムを作らないか」とお声がけいただきました。 とはいえ、山口市の人口は20万と少なく、起業家志望の多くの人材は県外に出てしまいます。
そこで、まずは地域発イノベーションのなかのリソースを増やすことを意識しました。今回のプランでは「原則・ビジョン・コンセプ ト・コミュニティ・プログラム・施設・周辺環境」の7つの項目について提案をしました。
まず、原則は3つあり、下記のようなものです。なぜこれらの原則が最初に必要かというと、当時チームの中に仮説を立て、プロトタイプをデザインし、テストを行うという発想がなかったためです。十分に検討されてない状態でテストをし、失敗をし、非難されることを恐れていたわけです。また、結果ではなくアウトカム重視という点は、建物を立てた、起業家プログラムを単にリリースしただけではだめで、税金を投じている以上、結果を伴う必要があるということを今一度意識してもらうためです。

1.継続的に発見する
 仮説をもとにプロトタイプをデザインし、テストを通じてプロトタイプを検証して、継続的にリソースを拡大する
2.失敗を許容する
 失敗をリソースとして適宜方向修正し、新たな仮説を構築する 
3.変化を重視する
 結果ではなく、自分自身、ユーザ、クライアント、地域に起きる変化を重視する 

次にビジョンを設定しました。ここでいうビジョンとは、山口市における起業家プログラムが目指す方向性、あるべき姿です。リサーチをつづける中で、人口150万の福岡市で実施されたイノベーション・プログラムに共感をし、「参加者自らが、自らの手で『豊かな』暮らしを実現する」をビジョンとして設定しました。このビジョンにもとづいて、

「副業・起業を増やす」
「既存の企業内で新規事業を増やす」
「山口市の関係人口を増やす」

の3つのKPIを設定しました。
次に「コンセプト」を決める際は、現状どのようなリソースがあるのかを徹底的に調べることが大切です。ここでいうコンセプトとは、ビジョンをいかにして実現するかという具体的な手段を指します。


山口市の場合、『山口芸術情報センター(YCAM)』という情報芸術の分野ではかなり有名な施設があり、バイオ・アートにおいて先進的な取り組みをしています。また、隣接する宇部市、防府市を含めるとワイン・ビール・スピリッツ・醤油・味噌・漬物・コーヒー・パン・チーズなどの発酵・バイオ関連の産業が広く分布しています。ここから、山口で新規事業をやるならば、「発酵・バイオ関連プログラム」の親和性が高いのではと導き出しました。

また、「コミュニティ」では、思想面と実務面の2人のリーダーが必要だと思っています。たとえば、「シェアハウス」であれば、住民構成を 重要視しました。実際に京都の起業家シェアハウスで話を聞くと、「成功者」を住民に入れていくことがポイントだそうです。シェアハウスはこれから起業をしたい人向けですが、リビングに何かしらの成功者がいて、直接答えが聞けるのは入居者にとって非常に大きなメリットですよね。

市内の分散したコミュニティを集約し、拡大していくために下記の施策 を提案しました。可能な限り早い段階でメディアを立ち上げ、関心をもった市内あるいは市外・県外の方がこのメディアにアクセスするだけで、様々な情報を獲得できるような状態となっていることが望ましいと考えたためです。
・記者会見およびメディア発表
・各種メディアの立ち上げ(note、Facebookページなど)


そして「施設」に関しては3つのビジョンを設定しました。こちらのビジョンについてもYCAMを参考にデザインしました。

オープンマインド・・・地域の人々にとって参加しやすく、開かれた場所
にぎわい・・・常に誰かがいて、何かが起きている場所
面白いヒトが集まる場所・・・県内・県外の面白い人が集まる場所


地域発イノベーションを成功させるための考え方として大切なのが「リソース・ドリブン・イノベーション」です。これは、地域の人々が、彼らの身の回りにある馴染み深いリソースから、新たな製品をデザインし、新たな事業を紡ぎ出すイノベーションを指します。

この理論の背景には、リソースの量と質が上がれば上がるほど、物事の不確実性が下がるという考えがあります。

ここでいうリソースは2種類あります。
オペランド資源(原材料・製品・サービス・地域資源など)
オペラント資源(スキル・ナレッジ・顧客など)


まずは、手持ちのリソースを把握します。
なぜリソースの把握から始めるかというと、成功した起業家に共通の行 動論理として「目的ではなく手段から始める」ということがわかっているためです。自分のアイデンティティ、スキル、ナレッジ、その地域が今持っている資源など、手持ちの手段から始めます。

リソースは把握するだけではなく、4つのツールで拡大させることがで きます。

1.フィールドワーク
2.パートナーシップ
3.プロトタイピング
4.テスト

フィールドワークやパートナーシップを通じて、新しいリソースを発見する。また、プロトタイピングとテストを重ね、失敗をすることで新しいリソースを確保することができます。

リソースの量と質を上げ、施策の不確実性を下げていきましょう。