『2073年(創業120年)までに”赤ちゃんが食べられるタオル”を創る』ことを掲げている、1953年創業の老舗タオルメーカー・ IKEUCHI ORGANIC
タオルメーカーとしては異例のコアなファンを抱え、毎年行うファンミーティングは即完売、イベント出店時はボランティアが多く集まるほど愛されているIKEUCHI ORGANICは、かつて襲った経営危機をもファンとともに乗り越えてきたそう。
一体、どのようにしてコアなファンを獲得し、ファンミーティングを開くまでになったのか。コミュニティ発足のきっかけとなったIKEUCHII ORGANICのメディア運営を担当する牟田口武志(むたぐちたけし)さんにお話を聞いてきました。

「良いもの」へのこだわりがファンを呼んだ

ーIKEUCHI ORGANICさんにはファンが多いですが、「ファンがついた」と明確に認識したのはいつ頃なんですか?
もともと、うちは20年前にオーガニックコットン100%を使ったタオルを作り始めたのですが、当時はそれが珍しく、ほとんど百貨店で売られているようなOEMを作っていたにも関わらず、環境系にこだわりのあるお客様を中心にコアなファンの方がいらしたんです。

ーなぜ、OEMなのにIKEUCHI ORGANICさんのものだとわかってもらえたのでしょう?
当時から海外で評価されたり、風力発電の風で織るタオルなど、メディアにも取り上げられることが多かったので、販売員さんやPOPの商品説明でお客様が問い合わせをして、気づいたみたいです。
2003年に経営が傾いたときも、噂を聞きつけたお客様から「あとタオルを何枚買ったら大丈夫ですか!?」とお電話やFAXがたくさん届きました。そのタイミングで民事再生をしたことをきっかけに、OEMではなく自社ブランドの名前で作った商品づくりへとシフトしていきました。

ー大前提として、「良いもの」をこだわって作っていたからこそ、その価値がわかる人がファンになっていったんですね。
そうですね。IKEUCHI ORGANICの理念は「最大限の安全と最小限の環境負荷」で、長く使える、品質の高いものづくりを徹底しています。
直営店ができる前は、お客様の声を直接聴くために、代表の池内が一人で全国を回って営業をしていたようで、5人でも人が集まってくれたら、90分講演をする、とファンとの対話を大切にしていたことも大きいと思います。
ーなるほど、初めはリアルな繋がりから広がっていったんですね。

「全社員にインタビューするメディア」から生まれたコミュニティ

ーそんなファンたちが、ひとつのコミュニティとして形になっていたのは何がきっかけだったんですか?
きっかけは、2015年に僕が入社したときに、代表の池内だけではなく、今治本社で働く職人さんをはじめ、モノづくりに関わる全ての方を前面に出して「誰が作っているか」を明確化した方がいいな、と感じて、社員の生の声を紹介するサイトを作ったことです。
すると、コアなお客様から大きな反響があって、「この人たちに会いに行きたい!」という要望が高まっていき、同年に初めてファンミーティングを開催する運びとなりました。以降、毎年開催しています。
ファンミーティングは、参加費の8000円と交通宿泊費をお支払いしてお申し込みいただきますが、ありがたいことに毎年すぐに完売しています。実際にIKEUCHIのタオルが作られている工場に行き、誰がどういうふうに作っているのか、普段は公開しない染色工程までじっくり見学をすることができます。
また、そこでファンと職人さんがコミュニケーションを取れるようにしていて、直接話を聞いたり、タオルへの熱い思いをぶつけてもらえる場となっています。
参加条件は「マイタオルを持ってくること」。
ーそれ、すごく良いですね。
また、公式のファンミーティングの他にも、「イケウチなヒトたち。」という取引先の方やコアなファンに「これからの豊かさ」について聞くWEBメディアでオフラインのイベントをやったり、各店舗でのイベントや、池内が直接来て話すイベントなど、お客様と対面でお話する場は、メーカーとしてはかなり多いと思いますね。


また、お店では「いつ、どんなタオルを購入したか」などを記録する『お客様カルテ』というものもあるんですよ。タオルを買ったあとも、アフターケアとしてタオルの風合いを戻すアドバイスも行っています。「売る」よりも「売った」あとのほうが大事なので、ファンとの関係を「続けていく」ことを重視しています。
ファンの声は聞くようにしていて、実際にそこから商品化に繋がったものもあります。今、ビートルズとコラボしたタオルをつくっているのですが、それもファンがIKEUCHIのロゴを見て「ビートルズのワンに似てる!」と言ってくれたのがきっかけです。
ーそんなことが! ファンの方を大切にされている様子が伝わってきます。

コミュニティの熱量はこちらから上げにいかなくていい

ーコミュニティを盛り上げるために、何か工夫されていることはありますか?
実は、直接僕が働きかけていることは少ないんです。地域には地域の店長がいるので、裁量権を渡してしまっていますね。僕がやっているのはWebメディアの運営とファンミーティングの実施だけ。
地域によってコミュニティの熱量は違っていて、今一番熱いのは京都なんですけど、ファンの方が店長にお弁当持ってきてくださったり、祇園祭という京都で1000年続くお祭りの催事でも「IKEUCHIをもっと広めていきたい!」とシフト表まで作ってほぼボランティアで運営を手伝ってくれたりしました。
ただ、他の地域も京都と熱量を同一レベルにしたほうがいいのか、と言えばそうではなく、各地域には各地域の特徴があると思っているんですよね。
僕は、IKEUCHIのコミュニティは無理にひとつに繋げる必要はないと思っているんですよ。その土地に根付いたコミュニティがあるのが理想だし、WEBメディアやファンイベントでは、一つに繋げるというよりも、より地域の繋がりを深める役割になればいいなと。

ーなるほど。牟田口さんが積極的にやっているというより、ファンが自主的に行動してくれることが多いんですね。
そうですね。こちらからファンの方に声をかけたり探したりもせず、自然発生している感じです。実は、僕たちは、「1年で何千人のファンを作る!」というコミュニティに対するKPIをあえて持っていないんですよ。
というのも、そもそも「コミュニティを作る」という目的のためにメディアを作ったのではなく、もともとファンの熱量があって、それに対してこちら側が閉じていたところを、開いていったような感覚で。
当時、京都では広がりを見せていたけれど、それが他の地域から見たらわからなかったから、それを可視化するためにメディアを作ったというのはあります。

ーコミュニティを作るためにメディアを作ったわけではなかったんですね。
そうですね。どちらかというと、ファンとより深く繋がりたい、顔の見える関係を作りたい、という思いのほうが強かったです。そこで、オンライン広告をやめてメディア運営予算をシフトさせて、「短期的にすぐに効果が現れるものではないけど長期的に見たら必ず効果が出ますから」と言い切ってやらせてもらいました。
思うんですけど、大切なのは、コミュニティをいかにうまく運営するか、ファンにどう擦り寄っていくか、ということではなくて、きちんと良いものをつくって、自分たちの良さを理解して伝え続けることだと思うんですよ。
うちの社員は、IKEUCHIの社員である以上にIKEUCHIのファンなんです

だから、無理に売ろうとしていないし、本当に心から良いと思っているからそれを素直に伝えた結果、買ってもらえて、ファンがついて、広がっていき、それが結果としてコミュニティになっていったんだと思います。
ーまずは、コミュニティづくりよりも、ものづくりから、ということですね。
そうですね。ただ、「コミュニティ」というのは、自分が思っている価値が世の中に対してギャップがあったらチャンスだと思いますよ。
一部のお客さんがいいよね、って言ってくれているけれど、それがまわりに知られてなかったり、外部へのギャップがあったりするのであれば、コミュニティを作って伝える価値はあるのかな、と思います。