あなたの住む地域のカフェには、どのような賑わいができているだろうか?地域に賑わいをつくるカフェの運営や、「Dandelion Chocolate(ダンデライオン・チョコレート)」などクラフトであることにこだわった食のブランドを通じて、多様なコミュニティの場を手掛けてきた株式会社WATの代表取締役 石渡 康嗣氏にお話を伺った。
 
アマナ主催のトークイベントでお話いただいた、これからコミュニティマーケティングを実践する上で重要となる「提供するサービスやメッセージが顧客に響かない」原因について、石渡氏の日頃の取り組みから紐解いていく。

コミュニティ作りにおいて、マーケティング視点の戦略は必要か。

石渡氏の手掛けるカフェでは、現場にいるスタッフに多く判断が任せられている。それは、お店に訪れる人や地域への共感力を大切にしているからだ。お客様の反応をよく観察し、食やサービスを提供していくことを心がけているという。地域に住む人や生活のマーケットを捉えるための観察という目的でのマーケットリサーチは行うが、資料作りを目的としたマーケットリサーチには、基本的にほとんど時間を取らないそうだ。
 
石渡氏:「コミュニティ云々の前に、飲食店という場を成立させるために、現場のスタッフの観察力や対応力はとても大事な要素だと考えているので、そういった資質を成長させることには特に注意を払っています。結果として、お客様から求められることと店が提供できることのマッチングが行われ、最適化していきます。あとから振り返ったときに、地域性やお客様との人間関係が店の骨格をなしていて、それこそがその店で生まれたコミュニティであることに気づきます。一定の仮説に基づいたマーケティング的なことはもちろん行いますが、いざ運営が始まれば仮説は結構外れていることが多く、立て直すための新たな仮説検証のために、スタッフ観察力や対応力が大事だと改めて気付かされます。」
 
向き合う相手の反応や顔色を観察しながら、彼らが何を求めているか考える。その姿勢を持たずにサービスを提供しても、本質が見えなくなってしまう。一体、私たちはどのくらいその本質と向き合い、見ることができているのだろうか。目の前にいる相手がどんな人で何を求めているのか考えてサービスを提供することが大切で、マーケティングはそのための手段であるのだということを改めて気づかされた。

トライアンドエラーこそが必要な場の形をはっきりさせる。

カフェの運営は計画通りには行かないもの。特にWATではディベロッパーや行政といったクライアントと協業しているカフェが多い。そういったクライアントにカフェの特性を理解してもらうためにも小さなコミュニケーションの積み重ねやゴールの共有化が大事だという。
 
そして石渡氏は、スタッフの個性を活かしたカフェの運営には不確実性も伴ってしまう、だからこそ、店舗の企画段階から風呂敷を広げすぎず、余白を持っておくことも重要だと話してくれた。運営力を強みとして、いくつもの店舗を手掛けてきた石渡氏だからこその視点である。
 
多様性と聞くと、一定のルールや決まりがないように聞こえ、スタッフ間ではどのようなコミュニケーションをしているのか想像することが難しいが、WATでは小さなゴール設定とその達成を繰り返し行うことで、運営が成り立っているという。
 
石渡氏:「持続的な運営において、ゴール設定は非常に大事であると思います。ゴールに向けてまずはチームでトライアンドエラーを積み重ねる。そうすることで、その地域にとってなくてはならない存在としてのカフェの輪郭が徐々にはっきりしてきます。もちろんその過程を経て、スタッフ個人も利己的な存在から、より社会的な存在として成長が期待できる。そのためにゴールを設定する、ということは儀式的にも大事だと思います。また経営としてはそのトライアンドエラーのために経営的余白を設けることがとても大事です。」

「食」を通じて作る”善良な人間関係”が、コミュニティを成長させる。

カフェをはじめ、様々な地域や人と向き合いながら「食」を中心とした場を作り上げてきた石渡氏。インタビューの最後に、石渡氏が作ってきた”コミュニティ”の根底にある思いを伺った。
 
石渡氏:「僕は性善説で生きている人間なので、社会が善良なものであると良いと考えています。そうあるためには、一人一人が人間関係を積み重ねて成長し、社会性を培っていかなければならないと思います。今僕が仕事として取り組んでいる「食」が、その善良な人間関係の構築に寄与していくことを願っています。」
 
人間関係を積み重ねた先に“コミュニティ”があるのだとすれば、人は生きていく上で何かしらのコミュニティと関わっている。それらのコミュニティが発生したり持続していくということはごく自然なことであるが、意図的に”コミュニティづくり”や”コミュニティを育てる”ということも可能なのではないかと考える。
 
石渡氏の場合、人の生活ととても密接に関わり合う「食」を通じたコミュニケーションで、人間関係を積み重ねてきた。私たちの身の周りにはどんなコミュニティが存在しているだろうか。一度その特徴や本質の部分に目を向けてみると、「提供するサービスやメッセージが顧客に響く」ためのヒントを得られるかもしれない。
 
Writer by  Haruna Kawano

----------------------------------------------------------------------------------------------------
 
[ 今回の話し手 ]
 
石渡 康嗣 氏
 
株式会社WAT 代表取締役
1973年京都生まれ。2013年に株式会社WATを設立。
三軒茶屋・蔵前などの〈Coffee Wrights〉、ひばりヶ丘団地の〈COMMA,COFFEE〉、大崎〈カフェ&ホール アワーズ〉など街にとって必要な場としてのカフェを運営。
一方で〈ブルーボトルコーヒー〉や〈ダンデライオン・ チョコレート〉の日本展開や、千葉県大多喜町のオー・ド・ ビー蒸留所〈mitosaya薬草園蒸留所〉への参画など、クラフトな食のブランドにも携わる。
 
[ 今回の聞き手]
 
Kawano Haruna
 
株式会社Kabin / 1988年生まれ。オフィス家具メーカー、カフェのプロデュース・運営会社を経て、2019年5月に株式会社 Kabin(花瓶)を設立。イベントやワークショップなど、意志ある1人を増やす場づくりを手法に、様々な組織や企業の課題と向き合う。株式会社アマナでは、コミュニティの”今”が集まるメディア「FLOAT」の編集・記事制作に従事している。